(第31回)TOPIXと日経平均


多くの人が、相場水準の物差しに日経平均を使います。TOPIXが30ポイント上昇したと聞いてピンと来ない人がいても、「日経平均が300円高しましたよ」と言うと、「おう、そうか」とすぐ伝わります。
米国でもわずか30銘柄のダウ工業株平均(いわゆるNYダウ)が親しまれる背景には、株価の上げ下げを表現するのに、ポイントという無機質な単位より、ずばりドルという金銭単位のほうが実感的に伝わるということがあるようです。
しかし、日経平均はポピュラーな株価指数ではあるものの、東証1部全体の動向を表わす指数としては、様々な問題点があります。
その第1は、みなし額面というやや無理な基準を使って計算するため、銘柄ごとに指数に与えるインパクトが不自然に違うということです。
たとえば、NTTとNTTデータ(株価はともに50万円台)が5万円ずつ上昇した場合、日経平均に与えるインパクトは、NTTの2円に対し、NTTデータは20円です。小さな子会社のほうが10倍も影響度が強いというのは不合理です。
TOPIXでは時価総額に浮動株を加味して算出するので、影響度は逆になります)
問題点の第2は、日経平均の最大長所は、戦後再開以来の連続性のはずですが、その連続性に疑問があるということです。特に、2000年のITバブル天井時における大量銘柄入れ替えによって、指数の性格はまったく別物になった感があります。


バブル崩壊後の90年代と現在の相場水準を比較するとき、日経平均で見るか、TOPIXで見るかによって、風景はまったく違ったものになります。
日経平均で見れば、今年の4月高値17,563円は、90年のバブル崩壊以降の3回の高値①21,552円、②22,666円、③20,833円にまだ遠く及びません。史上最高値38,915円に対して半分以下の水準で、かつ90年代の平均的な水準にさえ及びません。
一方、TOPIX で見れば、今年の4月高値1783ポイントは、90年代の高値①1712、②1722、③1754を上回り、バブル崩壊後の高値を更新した形になっています。加えて、史上最高値2884ポイントに対しても62%の水準まで回復しています。
TOPIXの連続性についても、株価の勢いが強い新規上場銘柄の上昇によってかさ上げされていうという点で疑問の余地があるものの、少なくとも特定の銘柄群の値動きに過度の影響を受けないという点では、日経平均に勝っていると考えられます。


日経平均TOPIXの割合をNT倍率といいますが、その倍率の長期的な低下が生じた理由は、日経平均が①バブル期に小型含み資産株でかさ上げされていた、②多く採用されていた三流株が90年代に売られた、③それを2000年のITバブル時にハイテク株中心に大量に入れ替え、その後もその傾向が続いているということなどです。
目先的には、日米にハイテク株の巻き返し機運があり、NT倍率が回復に向かう(つまり、日経平均TOPIXの10倍を超えていく)ことが考えられますが、代表的な指数としての重要性や、指数先物取引の対象としての役割は、今後も緩やかに低下していく可能性が高いと考えられます。


03年から今年4月までの上昇は、回復期の相場として、バブル崩壊後の戻り高値への挑戦でしたが、TOPIXで見れば、それをみごと達成したことになります。
一部には、TOPIX が90年代の3回の上昇と同じ1700ポイント台で反落したことで、上値の重さを懸念する見方もあります。しかし、PERの水準がまったく違うことでも示されるように、企業業績はかつてとは比較にならないほど厚みを持っており、90年代の3回の上昇のように、1〜2年の上昇でエネルギーを使い果たし、元の黙阿弥の安値に落ちていくことにはなりそうもありません。
むしろ、TOPIXが次の上昇で4月高値を更新した場合、日本株は「失われた90年代」にはっきりと区切りをつけ、米英の90年代の相場と同じく、安定的な経済成長と効率的な企業経営を評価する相場を形成することになると考えられます。


日経平均だけ見ると、90年代の上値の壁が大きく立ちはだかり、株価回復の道のりはまだ遠いということになりますが、違う見方をしてみる必要がありそうです。
TOPIXの動きが示すとおり、我々はもうすでに回復期の相場を終え、いまは新しい上昇相場に向かうための始動段階にあると考えたほうがよいと思われます。