(第30回)業績相場を考える


次に来る本格上昇が、業績相場と位置づけられるのは間違いありません。
日本経済は、長いゼロ金利時代を終って、金利正常化の時代を迎えようとしています。もし金利上昇に向けて無事に離陸(ソフト・テイクオフ?)できれば、失われた90年代のロスを取り戻すような経済拡大も夢ではありません。
老大国の英国でさえ、91年以降は不況知らずの着実な成長が続いています。高齢化の進む日本の将来も、それほど悲観したものではないかもしれません。
現在はまだ疑心暗鬼の状態で、次に来るのが上昇相場かどうかさえも怪しいと思っている人がたくさんいますが、少なくとも日本経済に対する根本的な悲観論は減少しつつあります。もし楽観論が再び力をえて、4月高値を上回るような上昇が実現した場合、それはもはや回復期の相場(金融相場)ではなく、もっと前向きに、将来の経済成長の可能性を買う相場になっていくはずです。


楽観論が再び力をえる時期としては、10〜11月が非常に有力です。1つは中間決算発表時に増額修正が続出すると見られること。もう1つは、11月で景気拡大期間がいざなぎ景気を超えて史上最長の4年10ヵ月目に達することです。
数字的な伸びが著しい企業業績はともかく、景気のほうは、すでに4年半拡大が続いているといっても、GDPの伸びは小さく、ほとんど実感を伴いません。期間が史上最長に達しつつあるということで、一部の著名株式評論家は、露骨に警鐘を鳴らしています。しかし、拡大の足取りがきわめて遅々としているからこそ、いまのところ過熱感(過剰投資、過剰在庫)はまったくないといってよいでしょう。よほどのことがない限り、微温的な拡大が年を越えて持続するものと思われます。
米国は91年から10年間、かなり高い率での景気拡大が続きました。ITバブルの影響がほとんどなかった英国は、すでに15年間緩やかな拡大を続けています。
私見では、この秋は、日本経済が遅まきながら、米欧の90年代の成長にキャッチアップしていく趨勢を多くの人が認めるところになり、業績相場スタートの条件が整うときになると考えます。


金融相場が、回復期の相場として低金利を有力な買い根拠にするのに対し、業績相場は、金利上昇の中で、それに勝る業績の拡大を買い根拠とする相場です。
日曜日(26日)の日経新聞の特集記事がそういう論調であったように、常識的には、借入金が多い企業は不利、財務内容がよい企業が有利と考えられています。
しかし、はたしてそうでしょうか? 金利が上昇するということは、ビジネスチャンスが増加するということです。例えば、同じ資産規模1000億円の企業があり、一方は無借金で株主資本比率が80%、一方は借入金が600億円で株主資本が20%とし、ともに投下資本に対して年率10%のビジネスに恵まれるとすれば、金利5%、税率55%の場合、前者の株主リターン(ROE)が6.9%なのに対し、後者のそれは19.25%と2.8倍の効率差が生じます。(これを資本のレバレッジ効果といいます)
むろん、よほど景気が過熱しない限り、ビジネスチャンスは財務内容のいい企業のほうに多く与えられるので、この計算のようにはなりませんが、それを考慮しても、業績相場では負債の多い企業が不利という常識は、明らかに間違っています。


大きなトレンドで考えれば、97年頃から「二極化」が始まり、02年末には100円割れ企業が続出し、ボロ会社(つまり借金過多企業)を売る動きがピークに達しました。その後、銀行の信用回復とともにボロ会社も復権してきたものの、基本的には業種のトップで財務内容がいい会社が選好される傾向が続いています。
この動きは、かつての日本株相場があまりにも味噌糞一緒の株価形成であったことの是正として評価される一方、一流以外の二流、三流企業から将来の宝を発掘する積極的な投資家精神の発揮という点では弊害もあります。
私見では、来るべき業績相場では、ただトップだからという理由でトヨタや武田を買えばいちばん儲かるというような単純な株価形成にはならないはずです。もちろん、ただ株価が安いという理由だけで、二流、三流株が買われるようなモラルハザードの相場にもなるはずがなく、変化率と投資価値でいちばん魅力があるのはどの銘柄かという点で、様々な試行錯誤が繰り返されると予想されます。
客観的に見て、現段階では、一流株に大きな上値魅力はなく、新興市場を含めた二流、三流の株が当面の試行錯誤の焦点になる可能性が高いと考えます。