(第37回)リスクとリターン



先週は、新興市場株が急落しました。上がるときも早いが、下がりだすと、まさに真っ逆さまというのが超小型株の特徴です。
どんな銘柄でも、株価が急落すると不安になるとはいえ、新興市場株の場合、おしなべて会社の歴史が新しいだけに、もしかすると悪材料が出て企業基盤が根こそぎ崩壊してしまうのではないかというような、極端な不安に襲われてしまいます。楽天のような大物銘柄でさえそうです。
こんなことなら、安心できる銘柄に投資しておくのだったと悔やみたくなります。新興市場が新安値をつけた先週半ばは、大型優良株はますます堅調な動きで、まるで「いつまでそんなだめ株にこだわっているのだ?」とせせら笑うかのようでした。


同じ株式投資でも、銘柄の種類によって、投資の性格はまったく違ったものになります。一つの典型が、日本株の中ではもっとも「ウィドウズ・ストック」(未亡人の投資に適した銘柄)の役割を果たしてきたと思われる電力株への投資です。
東京電力は、1970年代から80年代半ばにかけての10数年間は1000円前後の往来相場でした。バブル期にはNTTもどきとして高値9420円まで買われましたが、その乱痴気騒ぎの整理がついた94年頃からは、安値2000円台、高値3000円台前半のボックス相場が続いています。
30年前には1000円前後であったものが、時価は3400円台に上昇しており、その間、銀行利子に勝るとも劣らない利回りの配当(加えて若干の株式配当)をもらい続けてきたのですから、りっぱに資産形成の役割を果たしたといえます。


ただし、なぜよい結果になったかということに留意しておく必要があります。
株価水準が上昇した1つの理由は、50円から60円に増配されたことが示すとおり、1株あたり利益の上昇です。しかし、それ以上に影響しているのは、金利水準が低下したことでした。もし長期金利が70年代のように6〜9%のレベルにあったら、7.8兆円の有利子負債の支払い金利の増加で、現在の1株利益はほとんどなくなっていた計算です。仮に60円配当を継続できたとしても、9%利回りに買えば666円、奮発して6%利回りに買っても1000円にしかなりません。
つまり、未曾有の低金利東京電力の株主に幸運をもたらしたのです。バブル前に東京電力を「ウィドウズ・ストック」として買った人は、87年にNTTの上場騒ぎに乗じて10倍に値上がりする機会に恵まれたばかりか、それを売り逃しても、日本経済が深刻に悪化・停滞したことが逆に幸いするという結果になりました。
しかし、さらに幸運が続く可能性は小さいのではないでしょうか。時価での配当利回りは1.7%で、10年国債にも劣ります。長い眼で見て、今後も資産形成の役割を果たせるかどうか大いに疑問です。


安心できる銘柄は、本来は<ローリスク・ローリターン>です。しかし、どんなに安心できる銘柄でも、高値で買えば当然ながら割りを食い、結果的にリスクが高まり、リターンは悪化します。現在の東京電力株はまさにそのような状態に見えます。
ところが、今年の株式市場は、大型株は<ローリスク・好リターン>で、小型株は<ハイリスク・凡リターン>というコンセンサスが成立しているかのようです。株価も実際にそのように動いてきており、先週はその傾向が特に強く出たわけです。
私見では、今年の優良大型株高・小型株安のトレンドは、90年代後半の「二極化」のように数年規模の地盤変化ではなく、サイクル的な修正運動であると考えます。年初には、新興市場ではPER100倍が珍しくないというふうに、小型株があまりにも楽観的に買われすぎ、それに見合うリスクが後から株価に織り込まれて下げ始めると、下げが下げを呼んだというのがこれまでの経過なのです。
リスクとリターンの関係のゆがみは、遅かれ早かれ正常化します。今回もいずれは大型株の上値が重くなり、小型株の上値が軽くなる形で、本来のリスク・リターンの関係が回復するはずです。先週末を起点とする小型株の反騰は、小型株に対する行き過ぎた悲観を修正する波動が出発したものと考えます。