(第29回)上値はどのくらいか?


少し前まで、市場の関心はもっぱら下値の方向にありました。ここにきての上昇で、上値のことにも考えが及ぶ状況にようやく戻ったわけです。ただし、現在のところ、株価の堅調さのわりに、市場のムードは好転していません。多くの人がこの間の上昇を横目にして、強気でも弱気でもない、あいまいな気分の中にいます。
ある人に聞いたら、「それはそうだろう。上値がね・・・・」という答えが返ってきました。つまり「上がっても、当分はたいしたことがない」というしらけた気分が投資家に浸透していて、それが強気になれない大きな理由になっているようです。


日本株のこれまでの上昇過程では、03年4月から1年間の上昇後、次の1年間がまるまる調整期間となりました。その間は、日経平均の12,000円、TOPIXの1,200ポイントがどうにも越えられない上値の壁だったのです。今回もまた1年間の調整後に上昇するというような単純・図式的な繰り返しはありえないはずですが、それでも4月高値の奪回を目先的に期待することは、心理的にかなり難しいことです。
したがって、4月7日の日経平均の17,563円、TOPIXの1,783ポイントが当面の上値の壁だと考えれば、現在値からわずか8%しか上値余地がないことになります。多くの個人投資家にとって、まったく魅力のない期待上昇率です。
では、我々は当面の調整期間(短く考える人で10月まで、長く考える人は来年以降まで)において、10%未満の上昇率しか期待できないのでしょうか?


そこに様々な問題があります。多くの投資家は、市況を日経平均(もしくは稀にTOPIX)で判断します。しかし、今年に入って、日経平均と一般の個別銘柄を選択して売買する個人投資家の損益は、大きく乖離してしまいました。
一般的な個人投資家は、早い人では新興市場が高値を打った1月半ばから、遅い人でも東証1部単純平均が高値をつけた2月第1週から悪化し始めました。その後、日経平均TOPIXの上昇過程で逆に悪化していたにもかかわらず、5月の急落では一心同体でさらに悪化し、平均株価は6月に下げ止まりましたが、7月末に最悪状態となりました。つまり、平均株価は5〜6月に下げたのにすぎないのに対し、個人投資家の一般的な持ち株は、約半年にわたって下げ続けたわけです。


このような状況の中、大きく下げたから中小型株の戻りが期待できるという見方と別に、今後も個人好みの銘柄は置いて行かれ、大型一流銘柄の優位が続くのではないかと考える人が増えています。また、いっそ平均株価そのものに、たとえばETF(指数投信)のような形で投資したほうがよいと指摘するアナリストもいます。
事実、先週発表された統計によれば、日本株が強張りはじめた注目の8月第2週の売買動向では、現物では外人の買い越しは679億円にすぎませんが、日経平均先物で531億円、TOPIXではなんと1,737億円を買い越しています。
戻り高値更新の原動力は、外人のTOPIX先物買いとそれに伴う証券会社の裁定現物買いだったとはっきりいえます。(日経平均重視の日経新聞には書かれていませんが)
TOPIXは、時価総額の大きな銘柄がそれに応じたインパクトを持つ指数です。しかも裁定買いでは、時価総額の小さな銘柄は間引きされますので、先物中心のTOPIX上昇局面での恩恵は薄まります。この結果、指数に比べて個人好みの銘柄のパフォーマンスが悪いという現象が加速されてしまいます。


では、今後も大型一流株優位が続くのでしょうか?
中期的には、ファンダメンタルズがそれを決定するはずです。私見では、90年代後半に見られたような「二極化」の進行はありえないと考えます。日本経済の回復が続くとすれば、トヨタやキャノンや武田ばかりが魅力的な銘柄ではありません。4〜6月期で、再生銘柄の長谷工がついにゼネコントップの経常利益をあげたように、今後その他大勢の銘柄の中から大きな魅力を持った投資対象が出てくるはずです。また、現在はゴミタメ同然の新興市場からもスター株が出てくるはずです。
今回の平均株価の上昇は、5月に発生した経済の先行きに対する極端な不安感が後退し、広範囲の銘柄に買い安心感が生じたことに意味があります。
今後は、上値が限定された平均株価よりも、約半年間の調整を終えた中小型株(あるいは非一流株)のパフォーマンスが格段によいものになると予想されます。
ここにきて、出遅れていた銘柄が底打ち反騰の動きを見せていることから、騰落レシオ(次項で再論)が上昇し、反動を警戒する見方もありますが、趨勢的に考えるなら、中小型株は、去年のこの時期の平均株価と同様、「上値はどのくらいか?」と考える必要さえないほど強い局面にあると考えます。