(第25回)投資家の迷い


ここにきて、日米の株価は、ともに方向感のない一蓮托生の動きをしています。続落かと思えば急反発を見せ、上昇が続くかと思えば下落する、現在の相場様相を端的に象徴するのが先週後半の株価推移です。
先週の20日(木)は、日経平均446円高という上げ幅もさることながら、東証1部で値下がり銘柄38に対して、値上がり銘柄数が新記録の1642という全面高商状が現出しました。手前味噌ですが、先週号の<株価分析>の欄で、20日が転換点になるのではないかという意見を述べ、期するところがありましたので、まさに転換が現実のものになったと喜びました。しかし、翌日には一転、米国株の反落を受け、東証1部で1318銘柄が値下がりするという無気力商状に逆戻りしました。


株価はつねに揺れ動きます。しかし、現在のように方向感がないまま揺れ動くのは、投資家の迷いが頂点に達しつつあるからに他なりません。
日々の市場で、個々の投資家はよほど頑固な人でない限り、心中に弱気と強気の両方の要素を合わせ持っており、感情はその両方を振り子のように行ったり来たりしています。しかし、意志薄弱な人でない限り、行動が右往左往することはありません。感情が弱気や強気に傾いたとき、多くの投資家は理性によって制御し、意思と行動の一貫性を保つのです。それゆえ、日々の相場は、意味もなく右往左往するわけではなく、一日の株価がある方向に強く変化すれば、それは投資家の意思を踏まえたモメンタム(勢い)として大きな作用を持つのが普通です。
もし20日(米国は19日)の全面高が、投資家の強い意思を背景にしたものであったら、よほどのことがない限り、翌日いきなりに無気力に沈むことはなかったはずです。また、翌日の反落が投資家の強い意思を踏まえたものであったら、当面のトレンドを決定するほど重大な意味を持つものと考えなければいけなかったはずです。
しかし、20日の上げにはモメンタムが不足しており、そして、翌日の反落にも大きな意味はなかったと思われます。そのことを端的に物語るのが、大幅高したにもかかわらず20日出来高は前日比減の16.8億株に止まり、翌日の反落ではさらに13.4億株まで減少したという事実です。出来高の減少は、投資家が積極的な意思を持って行動していないということを示しています。


これを書いている火曜日、日経平均は米国の上昇を受け210円高したものの、出来高は14億株台でした。私見では、日米投資家の迷いは、次の1点に集約できます。
①株価は業績に対して割安に見える、②しかし、安いのには安いなりの理由があるはずで先行きが心配、という期待と不安の交錯です。
先行きへの心配の根拠として、具体的にはインフレ懸念と利上げ、景気減速懸念、地政学的なリスクなど様々に挙げられますが、むしろ投資家個々の心中では、漠然とした不安感が渦巻いていると表現したほうが適切でしょう。さらには、個々の株価は業績に対して割安に見えても、NYダウ日経平均という日米の代表的な株価指標で見れば、株価は数年来(NYダウは史上)の高値圏にあるということが、投資家の不安の基礎部分にあるといえましょう。


今後、投資家の心理がどのように変化していくのか?
答えを出すのは株価それ自体です。
株価は投資家が決めるものとはいえ、一人ひとりの投資家で見れば、昨日と今日とで考えがそれほど変わるわけではありません。株価のモメンタムによって、投資家の心理が徐々に変化し、結果的に多数意見が形成されます。
私見では、これまでに申し上げてきたとおり、相場の方向性を決める鍵を握るのはハイテク株であり、その動向にどういうモメンタムが形成されるかで、今後の相場展開は大きく変わってくるはずです。
日米のハイテク株は、主力株でもPER20倍割れが珍しくないという、将来に対して相当な悲観を織り込んだ株価形成がなされています。もしこのPER水準が正しいとすれば、株価は株価に聞けということで、世界のハイテク需要はピークに近づきつつあると見なければなりませんが、上に述べたように、現在の株価が投資家の強い意思を踏まえたものとは考えられない以上、その答えの信憑性は疑問です。
おそらく、日本の主要企業の四半期決算が集中する今週末もしくは来週前半までに、日米の株価にその答えと明確な方向性が見えてくるのではないかと考えます。