(第23回)何が得か?


読者から質問がありましたので、今回は株式投資だけに限定せず、資産運用全般から考えてみます。
資産配分の対象は、主に債券、株式、商品、不動産の4つです。
平均的なサラリーマンを例にとれば、住居が持ち家か賃貸かで資産バランスは大きく違います。賃貸の人は、持ち家の人より金融資産を多く保有しているわけですが、92年以降は、何もしなくても持ち家より有利という状況が長く続きました。しかし、デフレ終結宣言ともいうべきゼロ金利解除を目前に控え、今後は、効率的な運用を心がけなければ持ち家に劣る可能性が高いと考えておくべきでしょう。
では、賃貸の人だけが資産運用を真剣に考えるべきで、持ち家の人は考えなくてもよいかといえば、そうではありません。たとえばわずかでも余資が生じた場合に、たいしたことがないと放置する姿勢は、将来の禍根につながるはずです。退職金でローンを返し終わったあと、残った金融資産を運用するすべもなく、預貯金金利の低さをうらみながら一生を終ってしまうということにもなりかねません。
資産をどのように配分するか、あるいは借り入れをどのように選択するかは、眼前の資産の大小にかかわらず、一生を生きていくうえで大切な問題だと思います。


4つの資産を価格変動の仕方から見た場合、不動産は別物です。REITなど証券化された場合を除き、売買が基本的に個別相対取引であるため、価格変動は粘着的で、経済の変化に明らかに遅行します。例えば、近年の米国の不動産価格の高騰は、90年代以降の米国経済の急拡大に遅ればせながらキャッチアップしたものと考えられます。日本の不動産価格も、土地神話が有効だった過去と違い、今後は経済の拡大に緩やかに連動したマイルドな動きを続ける可能性が高いと考えられます。
それに対して、債券、株式、商品は、経済の先行きを先取りすることによって、日々センシティブに市場価格が変動します。
これらの市場価格の動向を決定する鍵は、つきつめれば、景気・物価・金利の3要素です。各資産の市場では、3要素の先行きをめぐって強弱が対立し、しかも互いに他の資産価格の動向を横目で気にしながら、日々の価格が形成されます。
債券から見れば、金利が本格的に低下するためには景気の悪化と物価の鎮静が必要な条件ですから、よほどの場合を除き、株式と商品の価格上昇は敵になります。
株式から見れば、関係は局面によって変化し、現在のような景気堅調局面では、債券に友誼関係が生じる一方、債券の敵ともいうべき商品には敵対関係が生じます。
商品から見れば、株式はつねに友人であり、債券にも微妙な期待関係があります。


ご承知のとおり、米欧の株価が高値をつけた5月10日以降は、これらの資産価格の揺らぎが世界的に激しくなりました。4月から金をはじめとする商品価格が株価や原油に追随する形で急騰に転じたため、インフレ懸念が高まり、金利上昇が景気失速を招くという悲観的な見方が台頭し、株価は急反落しました。しかし、その後、金利上昇は限定的で、かつ景気は堅調を持続するという楽観的な見方が息をふき返し、株価は反転の勢いを見せたものの、ここにきては商品価格が再び強ばってきたことからインフレ懸念が再燃し、その一方で米国を中心にした世界景気の減速懸念も強まるというふうに、不安心理がくすぶったままの状況で現在に至っています。


当面の景気・物価・金利について、大きく分けて次の3ケースを想定できます。
①景気悪化→物価沈静・金利下落(債券有利)
②景気堅調持続→物価やや上昇・金利やや上昇(株式有利)
③景気過熱→物価高騰・金利高騰(商品有利)
このうちのどれに力点を置くかで、資産運用の方針は変わります。
私見では、①の可能性はあるとしても、日本はもとより世界的にも本格的な金利下落期が近々に再来することは考えにくく、債券(長期債)は現在、リスクとリターンのかね合いからはもっとも経済性の悪い資産であると判断されます。
また③については、目先的には物価全般の高騰は考えにくく、現在の貴金属などの高騰は、一部の投機資金でセンセーショナルな価格変化を生じている側面があり、物価動向を真に表わすものかどうかは多少割り引いて考えなければなりません。
したがって、やや我田引水ながら、②の可能性を中心にして、マイルドな形では①あるいは③に若干ぶれる可能性があると考えます。


以上は私の考えですが、当面の資産価格は、景気・物価・金利について様々な考え方が入り乱れ、明確な答えが出ないまま、踊り場が形成されていくと思われます。