(第21回)やや先のことを考える


先週、今後のリバウンドについて、「違う相場が始まる可能性はない」と書きましたが、この表現は間違いだったと反省します。当面は、大型・小型、ハイテク・内需の渾然一体の戻りが予想されるという意味で書いたものの、かなり近視眼的な見方に偏っており、時間の経過とともに、金融情勢や産業動向の変化を踏まえたうえで、銘柄の値動きに大差が生じることについての配慮が不足していました。
たとえば2年前、04年5月の平均株価の反落とその後の調整で、大半の銘柄は平均株価に連関した動きを示したものの、部分的には大きな明暗が生じました。
暗の典型はパイオニア三洋電機です。ともにその後戻りらしい戻りがないまま、昨年秋まで1年半以上にわたって下げ続けました。
明の典型は郵船・商船三井帝人東レです。ともに5月には平均株価とともに反落したものの、すぐに切り返し、その後高値を切り上げて今年に至っています。
同じく日経平均225種に含まれるポピュラーな銘柄でありながら、かたや右肩下がり、かたや右肩上がりが1年半続くのですから、そのパフォーマンス差は甚大です。


04年5月の場合、直接の下げ要因は、中国経済の過熱化懸念でしたが、強気充満のあとの反落という点で、市場環境は現在と共通する点が多いと思われます。
日経平均は4月の高値から5月安値まで13.6%下げたあと、7月にはその下げ分のかなりを埋める反騰を演じました。当時の最大の人気株であったみずほは、56万円から39.6万円まで約30%下げたあと、その下げ分の6割強を埋める49.9万円まで戻り、そのあとやや強含みのボックス相場を形成しました。
今回も、主力株については、下げ率と戻り率の大小はあっても、一般的にほぼ同じイメージで推移することが想定されます。
問題は、銘柄選別による明暗がどのような形で生じるかです。
04年の場合、暗が多かった業種は、主に電機とソフトウェアですが、その業種すべてではなく、パイオニア三洋電機・日立ソフトなど業績が悪化した銘柄、もしくは日立・東芝・NECのように業績の回復が期待ほど進まなかった銘柄でした。
一方、明が多く生じたのは、上述の海運・合繊のほか、石油、中堅鉄鋼、タイヤ他自動車関連で、いずれもその後、業績好調がますます明確になっていく銘柄群でした。
概括すれば、04年4月までの上昇第1ラウンドが、ハイテクと再生銘柄が主役であったのに対し、それ以降は在来産業が主導的になったといえます。ただし、その明暗を分ける鍵になったのは業績動向でした。したがって、今回も各企業の業績の先行きを踏まえて、大きな明暗が生じると考えてよいと思われます。


今後どのような銘柄群にどのような明暗が発生するか? それは、日本経済がどのような形で拡大するのかとほとんど同義で、本当のところはなかなか予想しにくいはずです。ただし、次の2つは、比較的に確実なこととして指摘できます。
まず第1に、次に来る相場は、いわゆる業績相場であり、金利上昇を織り込んだ株価になるということです。従来は金利上昇不利とされていた銀行が、最近は金利上昇有利という見方が定着しつつあるように、金利上昇が銘柄ごとに及ぼす影響を、固定観念で推し量ることは禁物であるものの、業績の回復が思わしくなく財務に余裕のない負債過多企業にとって、重大な懸念材料であることだけはいえましょう。
第2に、バリュエーション(株価算定)の問題です。
前回「暗」となったハイテク関連は、有名ハイテク関連という観念によって株価がかさ上げされていた可能性が濃厚です。NECや日立ソフト、NTTやNTTドコモはいずれも2年前の高値を抜けず、日立が4月にかつかつ上回った程度ですが、いずれも漠然とした期待感が先行して、多少の増益では説明できないPER水準に買われていたことに、この間の株価低迷の大きな原因があると考えられます。
次に来る業績相場では、時間の経過とともに、銘柄に対する見方が寛大になり、足元の業績に対しては高いPERに買われる銘柄が続出する可能性があります。ただし、ボロ株が乱舞するミニバブル的な最終局面を除けば、将来の期待利益によっても株価水準を説明できない割高な銘柄は人気化しにくい状況が続くはずです。


やや先を見れば、これらを踏まえて、銘柄を選択する必要があります。ただし、一寸先は闇で、未来を知ることができない以上、現段階で投資家にできることは、①時流に迎合せずともむやみに逆らわず、②納得できる銘柄の納得できる株価水準に投資する姿勢を貫くことだと思います。