(第20回)上値期待を考える


先週は「下値不安を考える」という表題で、投資家の関心がもっぱら下値の方向に向いていることを書きましたが、下値不安がやや薄らぎ、「どのくらい戻るか」ということに関心を持つ人も増え始めました。
昨年末には、上がることばかりを考える人が多く、まさに「行け行けどんどん」の状況でした。しかし、今月14日の日経平均瞬間安値14045円の時点で、その対極としての総悲観が実現したことはほぼ確実と思われます。現時点では、多くの投資家が「また下がるかもしれない」という不安を引きずる一方で、「戻るかもしれない」という期待も持ち始め、その割合のバランスが均衡に向かいつつあるようです。
戻りを期待して何か買ってみようという場合、考えるべき問題は次の2つです。
1.戻りの質をどう見るか
2.戻りきれず再び下落するリスクをどう踏まえるか


まず、質の問題。予想される戻りの質について私は次のように考えます。
相場の戻り方に2通りあります。1つは、下げ始める前の相場にそのまま戻ろうとする場合、もう1つは、それを契機にまったく違う相場が始まる場合です。
今回の場合、違う相場が始まる可能性はほとんどないと考えてよいと思います。03年以来の、特に去年からの上昇相場は、日本経済の再生を買う相場であり、大型も小型も、ハイテクも在来産業も、根本的には運命共同体です。世界的に見て景気がここまで成熟した以上、インフレなき安定拡大のためには、これからはハイテクにより多く期待すべきと私は考えますが、それでもハイテク高・内需安というような90年代後半型の「二極化相場」が再来することはありえないと思います。ハイテク製品の需要増加は、その土台として在来産業の需要堅調を前提とするからです。


ただし、下げ始める前の状況に戻ろうとするにしても、いつのどの高値に戻ろうとするかについては、考え方が分かれます。
NYダウや英独仏の指数は5月10日高値です。
ナスダック指数や日経平均、TOPIXは4月高値です。
東証第1部の単純平均は2月高値、東証2部や新興市場の高値は1月16日です。
最後まで頑張っていたものほど下げ率は少なく、したがって強いといえる一方、先に下げ始めたものものほど下げ率が大きく、したがって戻りが魅力的といえます。
このどちらに比重を置くかは、たいへんな問題です。おそらく当面の相場は、この考え方を混在させて、渾然一体の戻り状況が続くはずですが、時間の経過とともに、パフォーマンスに大差が出るはずです。
普通に考えて、再び世界株高が完全復活したときに買われるのは、最後まで頑張っていた強いグループでしょう。しかし、今回の世界的な調整は軽いものではなく、株価が原産品価格とともに1つの頂点を見たと多くの投資家が認識した以上、簡単に5月の状況に復帰できると考えるべきでありません。今後しばらく高値挑戦にはほど遠いもみ合い相場が続くとすれば、下げ率の大きな銘柄、つまり弱いグループほど、戻り余地が大きいと考える投資家が増加し、当面の上昇率が高くなるはずです。


次にリスクの問題。大幅下落銘柄に投資するには、リスクの大きさがネックになります。ただでさえ、流動性や企業規模などからつねにリスクの高い銘柄が多いところにきて、株価が弱いには弱いなりの理由があり、市場が再び悲観に傾いたときは、激しく売られることを覚悟しなければなりません。
弱い理由は、大きく分けて次の2つです。
1.難材料がある(たとえば携帯事業の収益が不透明なソフトバンクなど)
2.日頃はきわめて不人気(低PER、低PBR銘柄の多く)
弱い銘柄を買うには、そのリスクを割り切る必要があります。
しかし、例に掲げたソフバンクなど、割高割安の算定が困難な銘柄をひとまずおき、安定成長型で比較的に投資価値の算定可能な銘柄だけでいえば、リスクを多めに割り引いても割安感が鮮明な、したがって実際にはリスクの小さな株価水準にあると判断できる場合が多いと私は考えます。