(第19回)下値不安を考える


相場が急落する中で、多くの方と、買うべきかどうかではなく、売るべきかどうかで話し合ってきました。
ふだんは、たいていの投資家が「何かいい銘柄はない?」というスタンスです。つまり、株は損をするかもしれないが、儲かることも多いと考え、関心の比重は株価が上がるかもしれないという方向に大部分あり、下値が心配だという方向にはせいぜい3割くらいの注意しか払っていない方が多いと思われます。
それに対して現在は、ほとんどの方の関心が下値の方向に大きな割合であります。たとえ言葉では「いま買えば儲かりそうだね」とおっしゃっていても、本心としては「でも怖いから、やめておこう」です。
私はそのような投資家の態度をあげつらい、むやみに強気をお勧めするためにこれを書いているわけではありません。先週も申し上げたように、急落に直面したとき、防衛的な体勢をとることは、堅実な投資家としてむしろ正しい態度だと思います。
問題は、下値の心配の仕方です。


現在の相場の下値不安を、心理的な要素で分解すると、次の2つです。
A. 去年から(あるいはこの3年)随分上がったから、下がるのではないか。
B. これだけ深刻に下がっているから、まだ下がるのではないか。
Aは、日経平均に代表される主力銘柄の株価位置への心配です。日経平均は去年5月から今年4月まで62%上昇しました。安値から17倍以上になったみずほに象徴されるように、この間に下落したとはいえこの1年あるいは3年間で見れば、単純に下を見れば足がすくむような株価位置にある銘柄も少なくありません。
Bは、新興市場や第1部の個人好み銘柄の急落ぶりに対する心配です。年初からの下げで上げた分を失い、数年来の安値圏であえいでいる銘柄も少なくありません。


ここ2週間ほどの相場様相が険悪な点は、AとBの不安が別々にあるのではなく、入り混じって増幅しあっていることです。
ふだんなら、高値圏の銘柄に関心がある人と、安値圏の銘柄に関心がある人はいわば別々の世界に住んでおり、自分と違う世界の銘柄の上げ下げにはそれほど強い関心を持ちません。むしろ、安値圏の銘柄を買っている人は、高値圏の銘柄の失速を人気交代のチャンスと思い、歓迎するくらいです。
ところがいまは、まるで2001〜03年の世界同時株安が始まっているかのように、大型株も小型株も新興市場株もみな一蓮托生で浮き沈みしているのが現実です。
では、03年に日経平均が7000円台に売られたような世界的な株安が再来すると本心から思っている人が多いのでしょうか?
否、です。多くの人が「ファンダメンタルズはそんなに悪くない」と思っています。インフレが心配だという人は多いものの、3年前までのような深刻な経済停滞が再来すると本気で心配している人はごく少数です。
では何が心配なのかというと、つきつめれば「いいときは続かない。上がりすぎた分がはげ落ちるのが心配」という点に収斂するのが大半の人の不安の根源です。
みずほのように高い位置にある銘柄を持っている人だけではなく、すでに3年前の水準に落ちた銘柄を持っている人の不安も、根っこはそこにあります。


不安は株価を下落させます。しかし、様々な不安が入り混じって心理的に増幅された不安は、長続きしません。たとえ一時的に株価を押し下げても、不安心理が相場全体のトレンドをその方向に決定した例はないといってよいでしょう。
私が申し上げたいのは、下値不安は下値不安として、冷静に自分の胸の中で整理する必要があるということです。
みずほのように株価位置の高い銘柄を持っている人は、世界の株価動向をにらみながら、それと基本的に連関したところで、下値を考えるべきです。
一方、ぼろぼろに下がった小型銘柄を持っている人は、日経平均や世界の株価動向に一喜一憂せず、自分なりの基準で、その銘柄の下値不安がどのくらいあり、持ち続けるに価するかどうかを真剣に検討すべきときが来ているはずです。