(第18回)急落の中で信じるべきもの


先週の金曜日は、険悪な急落商状から一転急反発となりました。やれやれと思った矢先、週明けに再度の下押しです。株価はよいところに来ている。しかし、まだ下がるのではないか? おそらく大半の投資家がその疑心暗鬼の真っ只中にいます。
相場急落を、トレンドとの関係で大別すれば、次の3つです。
1つは、下落トレンドを決定づける急落(下げ途上の下げ)、1つは下落相場の最終局面での急落(セリング・クライマックス)、もう1つは、相場の方向性とは関係のない単なる下ブレです。


数年単位の長期で見れば、今回の株価下落は、単なる下ブレとして評価されることになるでしょう。日本株が03年につけた安値は、89年につけた史上最高値に対応する歴史的な転換点です。とすれば、トレンドが大転換して3年しか経過していない現在は、実体経済の回復の度合いに照らして戻りの程度を試す段階にあるはずです。仮に百歩譲って、日本経済の回復がすでに一巡したという悲観的な見方に立っても、未曾有の経済不振が再来するという杞憂に近いケースを想定しない限り、株価はボックス相場を形成しながら、戻りを再び試すことになると考えてよいはずです。
ただし、積極的に売買している投資家のほとんどは、数年単位ではなく、せいぜい数か月単位で考えています。
その立場から見れば、今回の株価下落は、単なる下ブレではなく、すでに大きな下落相場です。したがって、切実な問題は、眼前の相場急落が、まだ下げ途上の下げなのか、それともセリング・クライマックスなのかということです。


ここに来ての下げは、少なくとも新興市場株に限れば、セリング・クライマックスの要件を満たしており、かなりの確率で相場はすでに最悪期を通過中であると考えられます。そして、多くの投資家がそれに近い感触を抱いているはずです。
しかし、現実の株価の動きはいまだに険悪で、予断を許しません。
現在のような下げ相場で株価が弱いのは、相場が底を打ったと考える投資家と別に、相場が下がると信じる弱気投資家が大勢いて強弱が対立しているからではありません。投資家の一人ひとりが、まさに疑心暗鬼の状態で、いまが底だという感触を抱く自分と、もしかしたら・・・・という不安感を抱く自分に分裂しているからです。


まるで崩れ落ちるような急落に直面したとき、感触や予想は有効ではありません。それよりも、不安感が投資家の行動を大きく左右するからです。そして、堅実に考えた場合、むしろそれは正しい面があると言えるでしょう。紀伊国屋文左衛門のような身代をかけた投機は、一生のうちに何度もやるべきではないからです。
堅実な投資家にとって、相場急落の局面でまず必要な作業は、感触や予想ではなく、株価を様々に想定し、悪い想定が実現した場合に自分がどうなるかを冷静に検討することです。たとえば日経平均が1万4000円に急落した場合にどうなるか? さらにはそれを超える世界的な暴落が来たらどうなるか?・・・・


さていよいよ本論ですが、様々なケースに対して一応の備え(もしくは割り切り)ができたら、あとは断固として自分自身の価値観を信じるべきです。
すなわち、考えるべきは唯一、ある1つの銘柄を、持つに値するかどうかです。
バフェット氏は、ダウも、需給関係も、金利も気にせず、すなわち相場を一切予想せず、自分の信じる銘柄に投資することだけに徹しました。その結果、多くの相場師が栄枯盛衰する中で、長年にわたり安定した資産運用を実現しています。
私たちもその姿勢は学べます。そもそも、その姿勢は難しいものではなく、相場知識がほとんどなく、自分の納得できる銘柄だけをじっくり保有し、結果的に成功している「素人」投資家の姿勢にも通じます。


相場が急落したとき、まず考えるべきは資金ポジションです。しかし、資金の備え(もしくは割り切り)さえつくなら、あとはなまじっか他人の相場予想や自分の未練や感情に左右されず、自分自身が本当に信じることを実行すべきです。そして、そのことが相場急落に際して、あとで後悔しないですむ唯一の方法と考えます。