(第13回)金利上昇は悪材料か?


日経金融新聞に、国債利回りの上昇により、株式から債券に資金を移そうと考えている機関投資家個人投資家がいることが紹介されています。
株式と債券のいずれを選ぶかは、人それぞれの選択であり、金利が上がれば債券で運用しようという動きが出ても当然です。ただし、その動きが株式市場の懸念材料になるという同紙の見方には大きな疑問を感じました。
昔、公定歩合が下がると、定期預金の金利に比べて電力株の配当利回りの魅力が高まり株式市場に新しい資金が入る、だから株価が上がる、というふうによく喧伝されました。しかし、現実に株価が上がったとしても、電力株を買う人が増えた分だけ株式の需給がよくなったというような単純な構図ではなかったはずです。
90年代には、電力株どころか日立など優良銘柄の配当利回りが預金金利を上回ったにもかかわらず、株価は下がりました。利回り選好の投資家の売買動向とかかわりなく、株価は上がるときは上がり、下がるときは下がると考えるべきです。


金利と株価には、いうまでもなく密接な関係があります。
図式的には、
株価=1株利益×PER、 PER=投資家の求める利回りの逆数
であり、金利が上がれば投資家が株式投資に求める利回りも上がるという関係から、PERは金利に逆相関するはずです。
しかし、現実にはそうならないことがしばしばあります。なぜなら、投資家が求める利回りには、リスクプレミアムを含み、それは心理的な要因によって大きく振幅するからです。90年代の日本株の下落は、過剰な期待による逆のプレミアムがリスクプレミアムに正常化していく過程であり、2000年から3年間の下落は、デフレ心理によって、リスクプレミアムが異常に膨張していく過程だったといえます。
今年中、早ければ7月にも予想されるゼロ金利解除は、長期金利の上昇につながりやすいということでPERの縮小要因であるものの、デフレ心理が完全に払拭され、リスクプレミアムの低下につながるという点では、PERの拡大要因として働くはずで、必ずしも金利上昇が株安を招くというふうに言い切ることはできません。


問題は、PERの水準をどう考えるかです。現状の日本株の平均PERは前期推定実績に対して23倍、5月末に明らかになる今期予想に対しておそらく21倍程度です。それに対して米国では16倍弱、欧州や中進国ではさらに低いことから、日本株のPERを割高視する人もいますが、その意見は金利水準を無視しています。
PER23倍は、利回り4.3%に相当します。仮に30年物国債との利回り差をリスクプレミアムと見なせば、その利回り差は1.9%です。
それに対して米国のPERは、利回り6.3%に相当するものの、30年物国債の利回りが約5%なので、利回り差は1.3%です。
このことは、米国株に比べて、単純に日本株のリスクプレミアムが大きいか、もしくは将来に見込まれている企業利益の成長率が小さいのかを意味します。
いずれにしても、現在の収益水準に対して、日本株は先進国の中でむしろ割引度の高い株価になっているということができ、経済が正常な状態に向かえば、リスクプレミアムの減少と成長期待の復元によって、債券との利回り差が縮小するはずです。


ゼロ金利解除と長期金利の上昇が、日本経済の正常化へのプロセスであることはいうまでもありません。
金利が上昇すれば、それ自体は株価を圧迫します。しかし、正常化に向かうことにより、債券との利回り差が縮小するのに加えて、時間とともに利回りの源泉である企業利益が増加するはずです。
未曾有の経済状態からの脱却という経済背景を前向きに受け止めれば、金利上昇が株価に与える影響を悲観的に見る必要はないと私は考えます。