(第12回)決算発表と株価


06年3月期の決算発表がいよいよ始まりました。全体として見れば、株価への影響は限定的と思われます。企業業績はすでに4年連続の増益で、今期も増益予想が出るのが当然ながら、その率が鈍化するのも当然と多くの人が見切っているからです。増益率の細かい集計結果に強い関心があるのは、研究所に所属している統計担当のアナリストくらいでしょう。
ただし、個別銘柄で見れば、決算発表が株価に与える影響はきわめて大きく、しばしばそれをきっかけに大きな明暗が発生することはいうまでありません。しかも、明暗が発生するのは、必ずしも発表内容にサプライズがあったときばかりではないのです。事前の予想と大差ない発表がなされた場合でも、その発表をきっかけにして大きな株価変化が起こることが珍しくありません。
例えば、3年前の合同製鉄がそうです。当時、私のコア銘柄でしたから、決算発表日を境にした株価の激変ぶりはいまも鮮明に記憶してします。


3年前の5月20日日経平均は7000円台の大底をつけてほぼ1ヵ月が経過し、日に日に底入れムードが強まる中で、合同製鉄は動意薄のまま80円台での横ばいが続いていました。当日も午後2時まで、前日比変わらずの86円が高値の小動きでしたが、決算内容が伝わった2時過ぎから急速に買いが入り始め、大商いのうちに17円高の103円で終わりました。そして翌日以降も買われ続け、1ヵ月半後の270円台までほぼ一直線に駆け上がったのです。(以来、長期的には上昇波動が継続)
合同製鉄は、その日予想外の決算内容を発表したわけではありません。前期実績で最終利益ほぼゼロ、今期予想で1株利益10数円、3円復配目標という内容は、事前に四季報等で予想されていたものよりむしろ劣るくらいだったと記憶します。
私の当時のスタンスは、合同、合同と顧客に言い続けたため、横ばいである限りはもはや勧めづらく、動き出してから割り切ってその動きに乗ろうという作戦でした。80円台のもみ合いを離れたあとの株価の動きは、私と同じようなことを考えている人が全国に多数存在していたことを示すものでしょう。
多くの投資家が、ある銘柄を売買しようとする際、決算発表前に売買するか、それとも決算を見てからにするか迷います。安全を重視する投資家は、多少値を犠牲にしても決算数字を確認してから投資を実行しようとします。そこにきて、当時の私のように動きにつこうと待ち構えている投資家や、なんでもいいから動くのが面白いという短期投資家が存在するので、あらかじめ一定の条件が醸成されていた場合、決算発表がおうおうにして大きな株価変化につながっていくのだと考えられます。


本来、決算発表と株価の関係で考えた場合、権利落ちがそうであるように、決算内容の概略は事前の株価に織り込まれているべきであり、決算発表の前後で急激な変化が起こらないほうが望ましいはずです。しかし、決算内容について、代表的な銘柄では新聞報道などにより事前にコンセンサスが定着している場合が多いものの、中小型銘柄では、決算内容のみならず、企業情報全般についてつねにコンセンサスが不足しています。よくも悪くも企業の実態が十分に株価に織り込まれていず、ミス・プライスになっている場合も多いのです。決算発表は、特に中小型銘柄において、株価水準の是非を再検討するきっかけとして大切なイベントであるといえます。


今年のこれまでの日本市場は、主力銘柄で見れば堅調だったものの、ライブドア・ショック個人投資家損益勘定と投資マインドに冷水を浴びせた形となり、個人好みの中小型銘柄ではなかなか儲けにくい相場状況が続きました。
ただし、事件勃発から3ヵ月が経過し、個人投資家のマインドが底入れしてもおかしくない日柄にさしかかっているといえます。これから5月半ばの決算ラッシュにかけて、個人投資家と、外人・機関投資家の中で、個別銘柄へのアクティブな運用を指向するタイプの投資家の行動が活発化する可能性があります。
平均株価が上下に安定した動きに入ることを条件に、決算発表にからんで、久々に中小型銘柄の活躍が期待できる季節になってきたと私は考えます。