(第10回) PERをめぐって


売買をするのに、PERは役に立たないという意見があります。
1つは、PCFRやEBITDA倍率などという別の指標のほうが、PERよりも収益力の実態をよく表わしているという、やや玄人めいた意見です。
もう1つは、株価の上がり下がりは人気次第なのだから、PERにこだわる必要はないという、短期売買に徹している人に多い意見です。
確かに、玄人めいた人が指摘するように、PERでは収益の実力が分らない場合がよくあります。また短期売買を好む人が言うように、なまじっかPERの低い株より割高株のほうが人気が持続するということもよくあります。
しかし、私は、それにもかかわらず、PERの投資尺度としての重要性は、今後も洋の東西を問わず不変と考えます。なぜなら、投資を検討する際、簡明に投資利回りの目安になる指標は、いまのところPERの他に見当たらないからです。


不動産売買で、アパートを棟ごと買う場合、普通の人は家賃利回りをまず計算します。5,000万円を投資すれば、満室の場合年350万円の家賃収入があるので、利回りは7%、さてどうしようか・・・・というふうにたいていの人は考えるはずです。
株の場合、家賃利回りに似ているのは配当利回りですが、実は違います。多くの投資家は現実に支払われる配当金だけではなく、将来も含めた配当支払い能力に対して投資しようとするからです。PERは、将来性をとりあえず保留して、期間利益と株価との割合(元本回収年数)を示す指標であり、配当利回りよりはるかに実際的に投資魅力を表現する利回り尺度といえます。


ところが驚くべきことに、バブル期の不動産売買のように、利回り採算など一切頓着せずに株の買い契約を結ぶ人がいまでも多数存在します。
従来の日本では、投資採算を度外視して株を勧める証券マンとそれに唯々諾々とする顧客が大半でした。いま思えば、株価をコントロールしたい発行企業と引き受け証券にとっては実に都合のよい市場環境にあったわけです。
その伝統は、この10年で市場は様変わりしたとはいえ、まだ根強く残っています。例えば、新規上場企業の業種問わずの異常な買い人気は、既存大企業へのあき足らなさの表明という側面があるとはいえ、収益の測定を無視し人気だけを追いかける投資が日常茶飯事となっている点で、かつての日本的投資姿勢と変わりがありません。


もっとも、株式市場全般で見れば、逆に驚くほどPERが株価に影響を与えていることが観察されます。90年代まで見られた説明がつかない株価水準は、IPO関連や仕手思惑株などごく一部の例外的な現象(○○会の買いというような非合理的な投資活動は縮小しています)であり、大半の銘柄は、PERもしくは一時要因を調整した修正PERである程度説明がつく株価水準におさまっています。
PER水準重視(足元の業績重視)の株価形成は、回復期の相場である金融相場の特徴でもあります。いずれ楽観期の相場である業績相場に移行すれば、よくも悪くも横並び的一律的なPER意識が緩和され、銘柄ごとに奔放なPER(将来性重視の株価)が現出するはずです。
ただし、日本株の場合、まだその時期は先で、当分は、これまでよりはやや将来性を買う気分が強まるものの、基本的にはPERの水準(すなわち足元の業績)を気にする株価形成が続くと考えられます。