(第7回)アナリストは株のプロか?


証券会社に在職中、調査業務を一度だけ経験したことがあります。44歳のとき、アナリスト検定試験(国内資格)に合格し、調査部門に配属されたのです。
その頃、他社の担当者と交流する中で強く感じたのは、調査業務に携わっていながら、株に対する関心をあまり持っていない人が多数存在するという事実でした。


もっとも、私が調査業務に携わったのは13年前の93年から2年足らずのことで、当時の証券業界は、80年代の恐ろしいほどのモラルハザードの状態を抜け出てはいないのですから、そのときの経験だけで今を語るわけにはいきません。
90年代後半以降、証券業界は急速に変貌しました。国内証券系の調査機関も外資系のよいところを学び、創意的な見解を発表するようになりました。
だが、現在も私の知る限り、多くのアナリストは株に対してわりと冷めた関心しか持っていません。たまたま証券、銀行、生保など金融機関に就職し、たまたま調査部門に配属されたので、結果的にそれが仕事になったという人が多いのです。加えて、近年は倫理規定の強化で自身の株取引をしにくくなったこともあり、生まれてから一度も株の売買をしたことがないというアナリストが珍しくないほどです。


株を持っていないから公正な分析ができるというプラス面はあります。しかし、株を持ったことがない人に、株価のダイナミズムを理解できるのでしょうか?
アナリストは、一般に考えられているような意味で、株価予想のプロではなく、その意味するところは、銘柄分析のプロに過ぎません。その能力は、フェアバリューの考察では有効かもしれませんが、株価の予想(ある期間での目標株価の設定や、平均株価と比較したパフォーマンスの判断)において、有効性を発揮する必然性は合理的にはないはずです。
調査機関には、相場状況を専門に解説するいわゆるストラテジストが存在し、さすがに株のことをよく理解している人が多いといえます。しかし、その彼らでさえも、予想が当たる確率はそう高くはありません。ましてや業種別アナリストの多くは、株価を予想する能力では一般投資家以下といっても過言ではないと思います。


では、本来予想能力に欠けているはずの業種別アナリストの意見がなぜ市場にインパクトを与えるのでしょうか? まず第一に、アナリストの意見によって大過なく売買をしようという機関投資家が存在するからです。第二に、そのことを知っていて先回り買いをしようとする個人投資家が存在するからです。
結果として、大手調査機関のアナリストの意見は、市場に速やかにインパクトを与えます。ただし、アナリストのレーティングは、発表直後にはよい成績を示すものの、発表当日の終値を基準にした場合、市場平均に対して成績がむしろ劣るという統計結果が発表されたことがあります。(特に、アナリストの意見が弱気の場合、結果的にその発表による下げが買いになることがよくあります)


今回、私が申し上げたかったのは、アナリストの悪口ではなく、株価の予想は難しいという厳然たる事実です。私自身、開業早々、注目銘柄とした黒田電気の急落ぶりには肝を冷やしました。株価の一寸先はつねに闇であり、おそらく、株価の上げ下げを当てる確率では、プロも素人も大差ありません。


では、なぜ投資顧問業をやっているのかと思われるかもしれません。
私は、自分の存在意義を、少しでも確率の高い予想を提供できるように努力することはもちろんとして、それと同じくらい重要な使命として、日々株価が動く中で、平常心と平衡感覚を保って資産運用(端的にいえば、リスク・コントロール)していくための一助になることであると考えています。


<付記>当面の株価想定で、ハイテクはもとから強気意見ですが、内需関連株について多少強気寄りに考えを修正しました。