(第4回)株の上手下手をどう考えるか


1年間で資産が2倍になった人と、20%しか増えなかった人を比べて、2倍になった人のほうがうまく運用したとは必ずしもいえないことについて、 先々週のこの欄で述べました。
自分なりの方法でリスクの小さな運用を心がけている人であれば、去年のように平均株価が大きく上昇した場合、普通の人より成績が悪くても仕方がありません。それに対して、ハイリスクハイリターンの運用を試みている人は、去年の成績は、平均株価の上昇率を大きく上回っていなければ、失敗だといえます。
株式投資でもっとも大切なことは、自分の求めるリターンとそのために自分が負うリスクについて、自分の中で明確に線引きしておくことです。先々週の文章で、私が特に言いたかったのはそのことでした。


よくこんな人がいます。儲かっているうちは、行け行けどんどんの姿勢で売買し、損が大きく出てから、「自分は、本当は、銀行に預けておくよりちょっとだけ増えればよいと思っていたのに・・・・」
よほど変わった人でない限り、できれば少しでも多く儲けたいと思います。そして、損はしたくありません。この2つの矛盾した欲望をどう按配するか、自分なりにどう割りきりをつけるが株式投資の出発点といえます。そして、その出発点があいまいな人は、おうおうにして株がもっとも下手な人になりやすいといえます。
私が証券マンだった28年間、様々な人が大損したり、大儲けしたりするのを眼のあたりにしました。一方で、大儲けもせず、大損もせず、堅実運用に徹している人にも知り合えました。


その経験から、はっきりと申し上げられるのは、技術もさることながら、株の上手下手を決めるのは、むしろ精神的なものだということです。
長い眼で成功する人は、大損をしたとき、あるいは大儲けをしたときの自制心に見習うべきものがあります。大損をしたとき、続行するかそれとも見切るかそれを冷静に判断するためには、損(今出ている損とこれから出るかもしれない損)に対して、割りきり(自分なりの区切り)がぜひ必要です。逆に大儲けしたときも、まったく同じ割りきりが必要です。儲けや損に対して割りきりができる人は、私が知る限り長い眼では成功をおさめています。


一方、長い眼で失敗する人は、おうおうにしてある期間の失敗や成功の中で冷静さを失ってしまうタイプの人です。少しの儲けのときには利食うか買い増すかで揺れ動き、大儲けになると超強気になり、損に転じると値戻しに未練を持ち、そして大損になってしまってから超弱気になったり、判断を放棄して損を忘れようとします。私自身、思い当たる点も多く、他の人のことを簡単にあげつらうわけには行きませんが、あの人が強気になれば相場は天井、弱気になれば底間違いなしという、逆の指標性を発揮する人がわりと多く存在します。


もちろん、以上のことは、株の上手下手に、技術や情報収集が重要ではないと申し上げているわけではありません。例えば、100万円の資金を100億円に膨らませた人がマスコミで話題になっていますが、資産を100倍にすることまでなら運だけでも可能でしょうが、1万倍にするためには、運だけではありえず、人並み優れた技術や才能や情報収集力が必要だったということは疑いありません。
ただし、その人に強い精神力がなければ、これほどの大成功はできなかっただろうし、今後成功を保つこともできないだろうとはっきり申し上げられます。


株価が不安定な上げ下げをしている現在、損と儲けに対しての自分自身の見きわめ方を再チェックし、割りきった姿勢で相場に臨む必要があると痛感する次第です。
<付記>目下たいへんな曲がり屋ですが、これまでのスタンスを堅持しています。