(第34回)配当金倍増のトレンド


26日、3月決算企業の中間配当が落ちました。好業績維持の自信から中間配当実施に踏み切る企業が多く、全上場会社では2兆円規模の配当金が支払われます。
多くの投資家は、売買の際に1株利益やPERを気にかけても、配当金がいくらかはあまり気にしません。だから、売買したあとに思いがけなく配当金をもらうと、余禄がついたと思って喜んだり、こんなにいい配当をしている会社と分かっていたら売るのを早まらなかったのにと悔やんだりします。
しかし、株式投資にとって本来、配当金が価値の源であることは疑いありません。株主の権利は、議決権など経営に関する権利を除けば、配当を受け取る権利に尽きます(会社解散の際の残余財産の分配金も含める)。たとえば先日上場したばかりのミクシィのようにいまは無配の成長会社も、その理論的な投資価値は、将来に受け取ると予想されるすべての配当金の現在価値の合計です。
 

26日終値現在、東証1部平均の予想配当利回りは1.21%です。予想PERが19.3倍で、その逆数の益回りが5.18%ですから、配当性向は23.4%です。
この配当水準について、対照的な2つの意見がよく言われます。
1つは、預貯金金利と比べて魅力的で、株価は割安という意見です。
もう1つは、国際的に見た場合、まだ米国の半分の利回りしかなく、日本株は配当面からも割高という意見です。
この2つの意見のうち、どちらが正しいのか? その鍵を握るのは、もし日本の金利が米欧並みの水準に復した場合に、企業の配当能力がどうなっているかです。
金利が上昇したとき、配当利回りがそれに応じて上昇しないとすれば、前者の割安意見は、簡単に否定されてしまいます。しかし一方、金利上昇に応じて企業の配当能力が増加するとすれば、金利の低い日本の配当利回りが低いのは当然であり、後者の割高意見が否定されます。
すなわち、今後予想されるのが、経済の拡大と企業業績の底上げの結果としてのよい金利上昇であるなら、前者の割安意見が正しく、経済の拡大と企業業績の底上げを伴わない悪い金利上昇なら、後者の割高意見が正しいという結論になります。
一般的には、今後の日本は、緩やかに経済拡大が進む中で、それに応じて金利が上昇していくと見られ、前者の意見が正解という結果になると私は考えます。


5年後を大胆に予測すれば、日本企業が株主に払う配当金は、現在の2倍になっているのではないでしょうか。
その要因は、最終利益の増加と配当性向の増加が半分ずつです。
現在は多くの企業が内部留保を当然のように優先していますが、成熟した在来産業の場合、拡大戦略をとらなければ、設備投資額は減価償却費と大きくは違わないはずです。したがって、大半の成熟企業は、内部留保を優先する大義名分に欠けており、借入金返済と自己資本充実の動きが一巡すれば、おのずから配当性向は高まっていくと見られます。成熟企業では、配当性向50%以上が普通になり、その結果、配当利回り5%以上の銘柄も珍しくはなくなると予想します。


87年にNTTが初めて売り出された頃、やはり政府株を放出したBT(英国電々)の売り出し価格は、10%超の配当利回りで、両国政府の考え方の違いに驚いたものです。NTTは、第1次売り出し価格でさえ、0.4%であり、しかもそれが上場で2倍以上にはね上がり、金融当局が積極的に関与した形で株式バブルが進行しました。
それから20年近くがたったいま、配当利回りが預貯金金利よりはるかに上回るという点では隔世の感があります。ただし、現在の利回り1.2%は、長期的な視点では到底魅力的とはいえません。2%台の電力株だってそうです。長期的な視点で好利回りといえるのは、少なくとも5%以上でしょう。
やや先を考えれば、不動産ファンド以外の株式投資でも5%以上の好利回りを期待することのできる、本来は普通の状態が近づいていると私は思います。